静かな夜に

Morton Feldman のオーケストラ作品”Coptic Light”に埋もれる。
紛うことなく、これは20世紀の生み出した最上の音楽のひとつ。
幾重にも重ねられた音の雲の向こうに微かにざわめくティンパニーとピアノのパッセージ。
それに耳をすませているうちに、いつの間にか、ゆるやかに、バイオリンが上行するメロディーのかけらを浮かび上がらせる。そして、ピッチカートからはじまり次第にオーケストラ全体に浸透してゆく波紋のようなパルスのうねりが、管楽器群のスタッカートのリズムの緊張に溶け込んでゆく。
なんという美しく、微妙で、幽玄なテクスチャーだろう。
モチーフというクラシック音楽の語法から(ほぼ)完全に解き放たれた、無重力の雲と光。
これを生み出す技術は並大抵のものではない。
そして、その音楽に深くコミットできる耳を持っていることを、僕は幸せに思うのだ。

静かな夜に