“Love Celestial” text and commentary

先日初演された拙作”Love Celestial”について「歌詞の内容はどんなことなの?」という質問をいくつかいただきましたので、プログラムノートの代わりにテキストと簡単な曲目解説を書き記しておきます。
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“Love Celestial”(女声コーラスと笙のための)は、コーラスグループ”カントゥス”の委嘱により2010年5月から6月にかけて作曲された。テクストとして”The Complete Poems of Emily Dickinson / Edited by Thomas H Johnson”より3篇の詩を選び、使用した。曲は全部で5つの楽章に分かれている。うち、ⅠとⅣは、それぞれ”Introduction”、”Intermission”として笙のソロとなっている。
ディッキンソンは1930年、マサチューセッツ生まれのアメリカの女流詩人で、彼女のもつ詩は現代人の迷いや悩みにダイレクトに響いてくる。女子聖歌隊であるカントゥスと彼女の詩を出会わせたらどうなるだろうか、という興味から曲を構想した。ほどなく、石川高の笙を加えるという編成上のアイディアがほんとに「どこか遠いところから」やってきた。低音のない女声コーラスにおなじく低い音の出せない笙を加えるのはセオリーに反するけれど、両者の倍音が絡み合う美しいイメージとともにやってきたそのアイディアを、僕は信用することにした。
詩の言葉と作曲の関係について少し語るならば、ここで目指した作曲の作業とは、詩の内容を追いかけその意味を補完することではなくて、詩の言葉を起爆剤にあたらしい今のわたしたちに有効な「何か」をつくることだった。Ⅱ. は、世界への「宣言」で、古い聖歌のモード(旋法)を参照している。Ⅲ. は、「なくした宝石」をめぐる長い時の経過をモードの持続とその転調によるダイナミズムに取り込む試み、そして、Ⅴ. では、あえて詩を曲解して「使わないテクスト」を内側に孕みながら、ポリフォニーを編んでいった。”We shall find the Cube of the Rainbow. ” 。”cube”には3乗するという意味もある。
以下、テキストを記す。
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“Love Celestial”
Poems by Emily Dickinson
Ⅱ.
This is my letter to the world,
That never wrote to me ―
The simple news that Nature told ―
With tender majesty.
Her message is committed
To hands I cannot see ―
For love of her ― sweet countrymen ―
Judge tenderly ― of me!
Ⅲ.
I held a jewel in my fingers ―
And went to sleep ―
The day was warm, and winds were prosy ―
I said, “Twill keep” ―
I woke – and chid my honest fingers,
The Gem was gone ―
And now, an Amethyst remembrance
Is all I own ―
Ⅴ.
We shall find the Cube of the Rainbow.
[Of that, there is no doubt.
But the Arc of a Lover’s conjecture
Eludes the finding out.]
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[Is it too late to touch you, Dear? ]
We this moment knew―
Love Marine and Love terrene―
Love celestial too ―
*[ ]で括った部分は敢えて曲中では使用していません。
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“Love Celestial” text and commentary