パラレル
僕たちはしばしば過去をふりかえる。
することができたはずのことを、選ぶことができたはずの選択肢を、そして、手に入れることができたはずのものを思って、しばし立ち止まる。
並行宇宙(parallel world)という考え方をご存知だろうか?
僕たちが選ばなかった可能性の世界がどこか別の次元で無数に存在している、という理論。
その考え方をするなら、人生は一本の線ではなくて木の枝が分岐していくような形をしているはずだ。そして、世界は無数の木がからみあった網のようなものだと考えてもいいだろう。
無数にいる「私」という考えは、過去を振り返って選ばなかった可能性について思いをはせているときの自分に、ある慰めを与えてくれるものかもしない。なぜなら、選ばなかった可能性は、その無数にいる「私」の誰かがリアライズしてくれているからだ。だから、「私」は安心して、今の自分でいればよいはずだ。
あるいは。
例えば、今日僕が何の理由もなく調子が悪かったとして、何となく気分がすぐれなかったとして、それが、網の彼方にいる僕からの何かのシグナルかもしれないと考えることもできるだろう。
それなら、引き受けなくっちゃね。
ほんとうに、他人事ではないのだから。
空気が冷えてくる、頬のあたりが引き締まる、季節のとばぐちに。